肩関節の考察⑨



「肩の引っかかり」や痛みはなぜ起こる?インピンジメントの本当の原因

腕を上げようとすると、肩に「引っかかり」を感じたり、ズキンとした痛みが走ったりすることはありませんか?この不快な症状は、一般的に**「インピンジメント症候群」**と呼ばれています。

これまで、この痛みは「肩の屋根」とされる肩峰(けんぽう)の下のスペースが狭くなり、その下を通る腱板(けんばん)や滑液包(かつえきほう)が挟まれることで生じると考えられてきました。しかし、実はそのメカニズムには、まだあまり知られていない真の原因が隠されているかもしれません。

今回は、肩の痛みのメカニズムに関する最新の知見に焦点を当て、特に特定の「水平方向の動き」が痛みの本当の原因である可能性について詳しく解説します。

1. 「インピンジメント症候群」とは?従来の常識

インピンジメント症候群は、腕を上げるときに肩に「引っかかり」や痛みを感じる症状を指します。この症状は、肩の運動によって、上腕骨頭(腕の骨の先端)と肩峰、そしてその間にある烏口肩峰靭帯(うこうけんぽうじんたい)によって構成される**「肩の屋根(烏口肩峰アーチ)」**の下で、腱板(特に棘上筋腱)や肩峰下滑液包が衝突・圧迫されることで起こると考えられてきました [I, p.67, 86]。

実際に、肩峰下のスペースは、腕を上げると狭くなることが観察されています。ある研究では、肩甲骨が内転位から外転位をとるとスペースが狭まることが報告されており [I, p.86]、また別の研究では、腕を能動的に外転すると上腕骨頭が肩峰に接近しスペースが狭くなることが報告されていました [I, p.86]。微小管注入法を用いた実験では、安静時の肩峰下圧が平均8 mmHgであったのに対し、挙上時には39 mmHgに上昇したという結果も得られています [I, p.87]。これらの知見は、一見すると「肩峰下でのインピンジメントの存在」を裏付けているようにも見えます [I, p.87]。

2. 「使いすぎ」では説明できない?肩峰下の新たな真実

しかし、当院の研究では、肩峰下の圧変化について、従来の常識とは異なる興味深い結果が得られています。

  • 垂直方向の挙上では、顕著な圧上昇なし 麻酔下での測定という条件下ではありますが、驚くべきことに、腕を前方に挙上する(前方挙上)際や、肩甲骨面(scapular plane)での挙上・下降運動では、肩峰下圧に顕著な上昇は認められませんでした [I, p.87]。これは、「腕を上げることで単純に肩峰の下が狭くなり、圧迫される」という従来の考え方を覆す可能性を示唆しています [I, p.87]。また、腱板に断裂がある重症例においても、挙上・下降運動で肩峰下圧が上昇しないことが立証されています [I, p.88]。

  • 真犯人は「水平方向の動き」だった それでは、どこで痛みが起きているのでしょうか。当院の測定で**顕著な圧上昇が認められたのは、腕を水平方向で動かす際の「内旋」**でした [I, p.87]。

    • 水平内旋位: この肢位は、HAWKINSらによって提唱された「インピンジメントサイン」の肢位であり、また野球の投球動作でいう**「フォロー・スルー(投げ終わり)」のフェーズに当たります [I, p.87]。当院の研究では、この水平内旋位で著しい肩峰下圧の上昇が認められ、まさにこの動きがインピンジメントを発生させていることが実証されました** [I, p.87]。
    • 水平外旋位: 対照的に、水平面での外旋位(投球動作のコッキングフェーズ、すなわち「腕を後ろに引いて投げ出す準備」のフェーズ)では、圧の減少が認められました [I, p.87]。かつては、このコッキングフェーズの反復によってインピンジメントが発生すると考えられていた時期もありましたが、当院の研究では、麻酔下での測定という条件を考慮しても、この肢位でインピンジメントが起きるという常識は否定されています [I, p.87]。むしろ、広背筋(こうはいきん)の過緊張による「腕下がり現象」が痛みの原因となることが多いと筆者は考えています [I, p.87]。

このように、インピンジメントの痛みは、単純に腕を「上に上げる」ことだけが原因ではなく、特定の「水平方向での内旋」という動きによって、肩峰下のスペースに不必要な圧迫や摩擦が生じるメカニズムが深く関わっている可能性が高いのです。

3. 痛みを軽減するヒント:動きの「質」と真の原因に注目

この新しい知見は、肩の痛みに悩む方々にとって重要なヒントを与えてくれます。

  • 動きの質の改善: 痛みの原因が「水平方向の動き」、特に内旋時のメカニズムにあるとすれば、単に「腕を上げる動作を控える」だけでなく、日常生活やスポーツ動作における「水平方向での内旋」の動き方を見直すことが、痛みの軽減につながるかもしれません。
  • 適切な治療法の選択: 1970年以来、筆者はインピンジメントを寛解させるためには、肩峰前下部の切除よりも、烏口肩峰靭帯(C-A Ligament)の切除の方が効果があると主張しています [I, p.87-88]。これは、今回の研究で、インピンジメントが水平面での内旋位、すなわち投球動作のフォロー・スルーフェーズで多く発生することが実証されたためです [I, p.87]。もちろん、腱板に亀裂があるなど、病態によっては肩峰切除術が必要な場合もあります [I, p.88]。

もしあなたが肩の「引っかかり」や痛みに悩んでいるなら、それは単なる「使いすぎ」や「腕の上げすぎ」ではないかもしれません。あなたの肩の痛みの本当の原因は、日常の動きの中に隠されている可能性があります。

しかし、痛みや動きの制限が強い場合は、自己判断せず、必ず専門の医療機関を受診してください。適切な診断と治療を受けることが、肩の悩みを解決し、快適な生活を取り戻すための第一歩です。



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