その「足首の痛み」、見過ごしていませんか?〜原因を探る診断と検査のすべて〜
その「足首の痛み」、見過ごしていませんか?〜原因を探る診断と検査のすべて〜
歩く、走る、ジャンプする…私たちの日常動作において、足首(足関節)は体重を支え、地面からの衝撃を吸収し、バランスを保つ上で極めて重要な役割を担っています。しかし、その機能性の高さゆえに、足首は外力や繰り返しの負荷を受けやすく、様々な痛みの原因となりやすい部位でもあります。
「ちょっとひねっただけだろう」「しばらくしたら治るだろう」と安易に考えてしまいがちですが、足首の痛みの裏には、単なる捻挫だけでなく、骨、関節、靭帯、腱、神経など多岐にわたる問題が潜んでいる可能性があります。痛みを放置すると、慢性化したり、歩行に影響を及ぼしたり、他の部位に負担がかかったりすることもあります。
この記事では、あなたの足首の痛みや不快感の正体を見つけるためのヒントとして、主な足首の痛みの種類と、医療機関で行われる詳細な診断方法について解説します。早期に原因を特定し、適切な治療を始めることで、痛みの悪化を防ぎ、活動的な毎日を取り戻しましょう。
足首の痛みの種類:あなたの痛みはどれ?
足首の痛みは、その原因や症状によって様々なタイプがあります。代表的なものをいくつかご紹介します。
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外傷による問題
- 足関節捻挫: 足関節の靱帯が損傷するもので、特に前距腓靭帯や踵腓靭帯、三角靭帯の損傷が一般的です。内がえし(足首を内側にひねる動き)による損傷が最も多く見られます。
- 骨折: 転倒などによる脛骨や腓骨の骨折、足部では舟状骨骨折や有鉤骨鉤骨折など、様々な部位で起こりえます。疲労骨折が生じることもあります。
- 挫滅損傷: 大きな外傷によって組織が広範囲に損傷される状態です。
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慢性的な負荷や変性による問題
- 変形性関節症: 関節軟骨の摩耗や変性により、痛みや可動域制限が生じます。特に足部では中足骨骨頭や母趾の中足趾節関節に変形が生じやすいとされています。
- 腱炎・腱鞘炎: 腱の炎症で、アキレス腱に起こるアキレス腱炎や、脛骨内側のシンスプリントなどが挙げられます。また、腱の機能異常による足底腱膜炎なども痛みの原因となります。
- 滑液包炎: 炎症を起こした滑液包が痛みを引き起こします。踵骨足底側の骨棘に伴う滑液包炎や、鵞足滑液包炎などが知られています。
- 痛風: 尿酸結晶が関節周囲に沈着し、特に第1中足趾節関節に激しい痛みや変形を引き起こすことがあります。
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神経や軟部組織の問題
- 足根管症候群: 足根管内で脛骨神経が圧迫され、足底にしびれや痛みが生じます。
- モートン神経腫: 足指の神経が圧迫され、足指の間、特に第3・4趾間に痛みやしびれが生じます。
- 胼胝(たこ)や鶏眼(うおのめ): 足底や趾の特定の部位に過剰な圧力がかかることで皮膚が肥厚し、痛みの原因となります。
- 巻き爪: 爪が周囲の皮膚に食い込み、炎症や痛みを引き起こします。
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姿勢や歩行に関する問題
- 扁平足: 足の縦アーチが低下し、足底や足首に負担がかかります。
- 内反足: 足部が内側に強く変形し、歩行時の重心移動に異常が生じます。
- 靴の不適合: サイズや形状が合わない靴は、足や足首に過剰な圧迫や摩擦を与え、痛みを引き起こします。
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関連痛(他の部位からの痛み)
- 足首の痛みだと思っていても、実際は腰椎、股関節、膝関節などの問題が足首に放散している可能性があります。
足首の痛みの診断方法:病院では何をするの?
足首の痛みや不快感の原因を正確に突き止めるためには、体系的な診察と検査が行われます。
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問診(もんしん):
- 痛みの部位、いつから始まったか、どのような動作で痛むか、痛みの性質(鋭い、鈍いなど)、過去の足首の怪我や病歴(特に捻挫の既往)など、詳細な情報収集が診断の第一歩です。日常生活やスポーツ活動の状況、使用している靴の種類なども確認されます。
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視診(ししん):
- 診察室に入室する際の歩行状態を観察します。痛みを避けるための跛行、うちわ歩行、足関節背屈筋の弱化による足部の落下、趾離地(つま先で蹴り出す)がうまくできない扁平足歩行など、特徴的な歩行パターンがないか確認します。
- 靴の観察も重要です。変形、すり減り具合、特定の場所のしわなどから、足部への不均一な負担や問題を示唆することがあります。
- 患者を裸足にして、非荷重位と荷重位の両方で足部全体を観察します。足首の腫脹や発赤、変形(外反母趾、扁平足、内反足など)、趾の形状異常(マレット変形、槌趾、鉤趾変形)がないかを確認します。
- 足部の縦アーチや横アーチの状態も評価します。扁平足では縦アーチの消失が見られます。
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触診(しょくしん):
- 痛みのある部位や足首周囲の骨、軟部組織を直接触って、圧痛、熱感、腫脹、硬さ、しこり、左右差がないかを確認します。
- 骨性のランドマークとしては、内果、外果、踵骨、舟状骨結節、距骨頭、中足骨骨頭、脛骨、腓骨などが触診されます。
- 軟部組織では、前距腓靭帯、踵腓靭帯、三角靭帯などの靭帯、アキレス腱などの腱、各種滑液包、足底腱膜などが触診の対象となります。胼胝や鶏眼、巻き爪の有無も確認します。
- 脛骨神経や腓骨神経など、末梢神経の絞扼によるチネル徴候の有無も確認されることがあります。
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関節可動域検査(かんせつかどういきけんさ):
- 足関節の背屈(足首を上に反らす)と底屈(足首を下に伸ばす)、距骨下関節の内がえし(足底を内側に向ける)と外がえし(足底を外側に向ける)、足部の内転と外転、そして趾の屈曲と伸展の動きを確認します。
- 患者自身の力で行う自動関節可動域と、検査者が介助して行う他動関節可動域の両方で測定し、可動域の制限や痛みの有無、異常な関節音(クリック音など)を評価します。特に第1中足趾節関節の伸展は歩行に重要です。
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神経学的検査(しんけいがくてきけんさ):
- 足部・足関節を支配する神経の働きを調べます。
- 筋力テスト: 足関節の背屈筋(前脛骨筋など)、底屈筋(腓腹筋、ヒラメ筋など)、内がえし筋(後脛骨筋など)、外がえし筋(長・短腓骨筋など)、および趾の筋力を徒手的に評価します。例えば、足関節底屈筋の筋力は、片足立ちでのつま先立ちで評価できます。
- 知覚テスト: 足部および足関節周辺の皮膚知覚(触覚、痛覚)の異常の有無を確認し、脊髄レベル(L4、L5、S1の皮膚知覚帯)や末梢神経(脛骨神経、腓腹神経、伏在神経など)の障害部位を診断します。
- 反射テスト: **アキレス腱反射(S1、S2)**の有無や強さを確認し、神経系の異常を評価します。
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特殊な検査:
- 特定の病気を強く疑う場合に行われる専門的なテストです。
- 前方引き出し徴候(anterior draw sign): 前距腓靭帯の損傷を評価し、脛骨に対する距骨の前方不安定性を確認します。
- 足関節側方動揺性テスト: 内がえしや外がえしに力を加え、靭帯損傷による足関節の動揺性を評価します。
- 扁平足のテスト: 患者がつま先立ちをした時や座っている時の足のアーチの変化を観察し、矯正の可否を判断します。
- 足関節背屈テスト: 膝関節の屈伸位での足関節背屈可動域を比較し、腓腹筋やヒラメ筋の短縮の有無を鑑別します。
- ホーマンズ徴候: 深部静脈血栓性静脈炎を疑う場合に行われる検査で、強制的な足関節背屈で下腿に痛みが誘発されるかを評価します。
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画像検査:
- 問診や診察で得られた情報に基づき、必要に応じてレントゲン(X線)、MRI(磁気共鳴画像)、超音波(エコー)検査などが行われます。これらの画像検査は、骨折、関節の変形、軟部組織の炎症や損傷、神経の圧迫などを詳細に評価するために不可欠です。
最後に
「少しの足首の痛み」と安易に考えず、その背景に隠れた様々な原因を見つけることが大切です。特に、痛みが続いたり、悪化したり、しびれや可動域の制限、歩行の変化を伴う場合は、自己判断せずに整形外科などの専門医を受診することをおすすめします。
今回ご紹介したような詳細な診察と検査を通じて、あなたの足首の痛みの原因を明らかにし、適切な治療や生活指導を受けて、快適な毎日を取り戻してください。
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