肩関節の考察③



あなたの肩は「忘れられた関節」になっていませんか?

「肩が凝る」「五十肩かな?」— 私たちの日常生活で、肩に関する悩みは尽きません。しかし、私たちは普段、この「肩」がどれほど重要で、どれほど精巧な仕組みを持っているか、意識しているでしょうか?

実は、かつて私たちの「肩」は、「忘れられた関節」と評される時代がありました。他の身体部位に比べて、研究や治療の関心が薄く、あまり顧みられることがなかったのです。頭部や内臓の研究が華やかな進歩を遂げる一方で、肩は日陰の存在でした。しかし、その精巧な仕組みは、精密機械にも例えられるほどであり、その複雑な運動のリズムは感嘆に値するものです。

今回は、そんなあなたの肩の秘められた重要性についてご紹介します。

「忘れられた関節」と呼ばれた時代とは?

私たちの身体の中で、骨組織が比較的長く形をとどめるため、古代では四肢や関節に関する観察や記述が多く見られました。紀元前から骨折や脱臼の治療法は存在し、医聖ヒポクラテス(HIPPO CRATES)の綿密な肩の解剖と脱臼治療の記載には、現代の肩専門医も感嘆するほどです。しかし、医学全域から見ると、肩疾患への関心はほとんど払われていませんでした。この事実は、1962年に英国のギルディング(GILDING)が行った講演演題**「肩―忘れられた関節」**に如実に象徴されています。

日本では、明治以降に西洋医学が導入され、伝統的な整骨術が一度は禁止されました。その後、各地の大学に整形外科が開設され、肩関節疾患もそこで治療されることになりますが、地域によっては依然として患者が「ほねつぎ」を訪れることも少なくありませんでした。日本整形外科学会で初めて「肩」が宿題として選ばれたのは1947年のことですが、脊椎や股関節、膝関節の分野に比べて、依然としてマイナーな領域でした。

肩の知られざる精巧さと奥深さ

では、なぜ肩は「忘れられた関節」でありながら、これほどまでに「精密機械」に例えられるのでしょうか?

まず、私たちが普段使う「肩」という言葉の範囲は非常に広いことに驚かされます。頚から腕までの曲線全体を指したり、三角筋周辺の腕の付け根あたりを指す名詞的な用法だけでなく、「肩の荷が下りる」「肩で風を切る」のように、責任や感情、対人関係を表す動詞的用法も持っています。

医学的に見ると、肩は「肩関節」と「肩甲帯」という二つの部分を包括した**「肩複合体(shoulder complex)」と考えるのが妥当です。この複合体は、単なる肩甲上腕関節だけでなく、肩鎖関節、胸鎖関節という3つの解剖学的関節と、肩甲骨が胸壁上を滑動する肩甲胸郭関節、烏口肩峰アーチと骨頭間のメカニズムである第2肩関節、そして烏口鎖骨間のメカニズム(CCメカニズム)という3つの機能的関節様関係**、合計6つの関節から成り立っています。

これら6つの関節が協調しあって運動することで、肩のどの位置においても異なる組み合わせでバランスを保ち、驚くほどの可動性と安定性をもたせているのです。腕を上げたり回したりする際の骨や筋肉の「協調的な運動のリズム」は、まさに感嘆に値します。上肢が躯幹に占める割合はわずか13%と、下肢の37%に比べて3分の1に過ぎないにも関わらず、その精密な運動性は何倍も要求されているのです。

この精巧さは、太古の進化の歴史に裏打ちされています。私たちの肩の原型は、なんと魚の横のヒレから発達したものとされており。恐竜時代にはまだ機能が未分化な蝶番関節でしたが、巨大な体を支える必要から球関節へと変化し、哺乳類時代にはさらに巧緻性やスピードへの適応を遂げました。そして、人類が二足歩行を始めたことで、上肢は移動の役割を放棄し、より精密な作業に従事するようになり、現在の精密な肩が形成されたのです。

「忘れられた関節」から専門分野へ

かつてマイナーな領域だった肩の研究は、志ある研究者たちの尽力によって大きな進歩を遂げました。1970年代には、肩に関する経験を語り合い、議論する「肩寄せあう会」が自然発生的に生まれ、1974年には世界に先駆けて「日本肩関節研究会」が徳島で産声を上げました

その後、研究会は学会へと発展し、バイオメカニクス、スポーツ外傷、鏡視下手術など、多岐にわたるテーマが活発に議論されるようになりました。1980年代には国際的な肩関節会議が開催され、日本の動向が各国を刺激し、世界各地で肩・肘関節外科学会が続々と設立されていきました。1993年には、アジア各国を巻き込み「アジア肩関節学会」が発足するなど、肩はもはや「忘れられた関節」ではありません。整形外科の重要な一部門として脚光を浴び、その守備範囲を拡大し続けています。

あなたの肩も奇跡の産物です

あなたの肩は、気の遠くなるような時間の旅を経て、現在の精密な「複合体」となった奇跡の産物です。普段の何気ない動作一つ一つが、この複雑で精巧なメカニズムによって支えられています。

肩の健康は、私たちの生活の質に直結します。もしあなたの肩が「忘れられた関節」になってしまっていると感じたら、ぜひこの機会にその奥深さに目を向けてみてください。そして、不調を感じた際には、進化の歴史と最新の医学によって解明されつつある「肩」の専門医にご相談いただくことをお勧めします。



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