東洋医学の根幹をなす「気」とは何か?

 

東洋医学の根幹をなす「気」とは何か?

東洋医学に興味をお持ちの皆さん、「気」という言葉を耳にしたことはありますか?私たちは日常生活で「元気」や「病は気から」といった言葉をよく使いますが、東洋医学において「気」は、まさにその根幹をなす思想であり、理論であり、治療法の基盤でもあります。今回は、東洋医学における「気」の概念について、深く掘り下げてご紹介します。




1. 東洋医学における「気の思想」

東洋医学は、約3000年前の古代中国で、人々が自然界の絶え間ない「変化」を観察し、その法則性を見出そうとしたことから誕生しました。そして、その根底にあるのが「気の思想」です。この思想では、宇宙の生成から生命現象に至るまで、すべての事象を「気」という概念を根底に置いて理解・解釈します。

私たちの健康は「気」の調和が反映された状態であり、反対に、様々な体調不良や症状は「気」の乱れが反映されたものと捉えられます。東洋医学の治療の目的は、単に病気を治すことだけではなく、この「気」の調和を取り戻すことにあるのです。

2. 「気」の多彩な運動パターンと性質

「気」は単一の概念ではありません。その運動形態や性質によって多様に分類されます。

2.1. 「気」の運動パターン

「気」には主に二つの運動パターンがあるとされています。

  • 昇降(しょうこう):上に向かって昇ったり、下に向かって降りたりする動きです。例えば、激怒すると「頭に血が昇る」と感じるように、感情の動きにも「気」の昇降が関係しています。
  • 出入(しゅつにゅう):体の中に出入りする動きです。食物の消化・排泄や、酸素の吸入・二酸化炭素の排出といった呼吸器系の働きを司ります。

これらの運動パターンは、人間の体だけでなく、植物の光合成や水蒸気の昇降といった自然界の現象にも見出すことができます。

2.2. 「気」の3つの流れと第3の性質

「気」は生命を維持する上で非常に大切な要素であり、以下の3つの流れを持っているとされます。

  • 物質:食物や酸素など、体を構成・維持する具体的な要素。
  • エネルギー:生命活動の動力となる力。
  • 生命情報:細胞間の情報伝達など、生命活動を円滑にする情報。

特に注目すべきは、科学的にはまだ解明されていない「生命信号」としての第3の性質が「気」にはあると仮説されている点です。これは、全身の約60兆個の細胞が、どのような通信ツールで情報交換をして生命と生存の調和を保っているのか、という現代科学の大きな課題にもつながる考え方です。

2.3. 「気」の種類:先天の気と後天の気

「気」は、その起源によって大きく二つに分けられます。

  • 先天の気(元気)

    • 父母の精の合体により誕生すると考えられ、生命の根源的なエネルギーです。
    • 東洋医学の「腎」(解剖学的な腎臓とは異なり、機能的な概念)に保存され、骨や脳髄の形成に関わります。
    • 誕生から成長、生殖、老化、死に至るまでの人生の「シナリオ」を展開するエネルギーであり、西洋医学における遺伝子情報に例えることができます。
  • 後天の気

    • 食物の摂取と呼吸によって、体内で作られるエネルギーです。
    • 栄気(えいき):体を養うエネルギー源で、血管の中を血液に乗って流れるとされます。西洋医学の栄養素や代謝熱エネルギーに近い概念です。
    • 衛気(えき):外部からの邪気(病気の原因)の攻撃から身を守る防衛の役割を果たすエネルギーです。血管から出て体表を流れ、白血球やリンパ液の働きに似ています。
    • 宗気(そうき):呼吸器官に関連するエネルギー源で、肺から吸収される清気と食物の栄養素が結合して胸中に貯えられるとされています。

3. 「気」の流れるルート:「経絡」と「ツボ」

「気」は体内を流れることで生命活動を維持していますが、その流れには特別なルートがあるとされています。

  • 経絡(けいらく):気・血・津液が流れるとされる特別なルートです。現代科学では直接測定できないとされていますが、鍼治療の際に感じる「響き」といった臨床観察に基づいて構築された理論です。経絡は、神経系や内分泌系とは異なる情報伝達ルートと考えられています。
  • ツボ(経穴):経絡上に点在する特別な点であり、気の流れを促進する中継地点や、自然界の気を取り入れる入口のような機能を持つと考えられています。ツボを刺激することで、体全体のバランスを調整し、病気の治療に役立てます。

4. 「気」の乱れと病気のメカニズム

「気」の運行に異常が生じると、様々な症状が現れ、病気につながります。主な「気」の異常には以下のものがあります。

  • 気虚(ききょ):気の量やパワーが不足している状態。倦怠感、無力感、食欲不振、息切れなどが現れます。
  • 気滞(きたい):気の流れが詰まったり停滞したりしている状態。痛み、胸苦しさ、イライラ、不眠などが生じやすいです。
  • 気逆(きぎゃく):気の流れが逆流する状態。吐き気、げっぷ、しゃっくり、咳、頭痛、めまいなどが現れることがあります。

東洋医学では、病気の原因である「邪気」と、自己治癒力や免疫力といった「正気」との戦いとして病気を捉え、この「気」のバランスを整えることを治療の目的とします。


「気」は、東洋医学の根幹をなす非常に奥深い概念です。科学的な解明が待たれる部分も多いですが、私たちの体や自然とのつながりを理解する上で、東洋医学の「気」の思想は、これからも大切な視点を提供し続けるでしょう。

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