柔道整復師と柔道:身体を癒し、育む、意外な「きずな」 「柔道整復師」という名前を聞いて、多くの方が「柔道」との関係性を不思議に思われるかもしれません。実は、この二つの分野は、日本の長い歴史と文化の中で、非常に深く、そして密接に結びついてきました。今回は、柔道整復師がなぜ「柔道」という名を冠し、どのような関係性を持っているのかを、一般の患者様にも分かりやすくご紹介します。 1. 始まりは「柔術」:武術の裏側にあった「癒しの技」 柔道整復師のルーツは、日本の古武術である**「柔術(じゅうじゅつ)」 にあります。柔術には、相手を倒すための「殺法(さっぽう)」、つまり 攻撃や殺傷の技術 と、負傷した人を蘇生・治療する「活法(かっぽう)」、つまり 負傷者を回復させる技術**という、表裏一体の二つの側面が存在していました。 考えてみれば当然のことです。 武術の稽古では、常に怪我と隣り合わせ。もし門下生が怪我をしてしまっても、それをすぐに治せる技術がなければ、稽古を続けることも、武術を発展させることもできません。 そのため、武術の達人たちは、攻撃の技だけでなく、怪我を治療する「活法」の技術も身につけていました。 柔道整復術は、この柔術の「活法」の側面が発展したもの なのです。古くは平安時代の医書にも、脱臼や骨折、打撲などの施術が記載されており、これが活法の初期の記録とされています。 一方、 現代の**「柔道」は、柔術の「殺法」の側面を競技として体系化し、武道として確立されたもの**です。 柔道の創始者である嘉納治五郎先生も、学生時代にいじめられた経験から強くなりたいと柔術を求め、「整骨師(接骨師)は昔は柔術家だったそうだ」という話を聞いて、整骨師を訪ねて柔術を学び始めたとされています。 このように、柔道と柔道整復師は、元々同じ「柔術」という根から分かれ、それぞれが「相手を制する」と「身体を癒す」という異なる役割を担うようになったのです。 さらに、柔道整復術が日本の伝統医療として国に認められ、法的な根拠を得たのは、大正時代に柔道家たちが積極的に公認を請願する運動を行った結果でした。このことからも、柔道という競技と柔道整復術という専門職の間に、 歴史的に非常に強い連携と相互依存関係があった ことがわかります。